世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1928
世界経済評論IMPACT No.1928

新「5カ年計画」で制裁との長期戦に挑む北朝鮮:第8回党大会の展望

上澤宏之

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2020.11.02

 北朝鮮は2020年8月19日,金正恩朝鮮労働党委員長出席の下,党中央委員会第7期第6回全員会議を開催し,来年(2021年)1月に第8回党大会を開催するとともに,「国家経済発展5カ年計画」を実施する方針を示した。同会議で採択された「決定書」では,「過去5年間の事業で成し遂げられた経験と教訓を分析総括し,我々の革命発展と醸成された情勢の新たな要求に基づき,正しい闘争路線と戦略戦術方針を提示することを目的として(2021年1月に)朝鮮労働党第8回大会を招集する」(同上)と言及したほか,「来年(2021年)の事業方向を含めた新たな国家経済発展5カ年計画を提示する」(同上)と明らかにした。北朝鮮における長期経済計画の実施は,失敗に終わった1980年代後半からの第三次第7カ年計画(1987~1993年)を最後に途絶えていたが,この際は「1990年代に入って相次いで起こった重大な国際的な出来事と複雑な事態は,我が革命と建設に大きな影響を及ぼし,我が国の社会主義経済の建設に大きな障害と難関をつくりだした」(1993年12月9日付け「朝鮮労働党中央委員会総会の報道」)と指摘するなど,ソ連・東欧社会主義の崩壊という「外的要因」が経済低迷の原因であると強調した。

 北朝鮮がここに至って来年1月の第8回党大会の開催と「国家経済発展5カ年計画」の実施を決めた理由として以下の二つが挙げられよう。その第一は,国連制裁・コロナ禍・水害の「三重苦」に直面していることである。国連安保理の対北朝鮮経済制裁が2017年に一部貿易品目から始まり,2018年から全面的に施行された結果,同年の北朝鮮の貿易額は,制裁前の2016年と比較すると,60%近く減少し,中でも輸出は約90%も落ち込んだ。また,今年に入って新型コロナウイルスの感染防止に向けて最高レベルの「国家非常防疫体系」が発布され,「生命線」である対中貿易まで滞り,今年1~9月の対中貿易額は前年同期比72.8%減の5億3,117万ドルに止まった(中国・海関統計)。さらに今夏,北朝鮮全域が豪雨に見舞われ,7~9月の降雨量が例年の年間平均降雨量の88%に達し,過去25年間で2番目に多い量を記録したことも伝えられ(2020年9月14日付け「朝鮮中央通信」),金正恩党委員長が先頭に立って各地で復旧作業を指示している様子が連日報じられた。

 また,金委員長は党創建75周年閲兵式(10月10日)での演説でも「現在,過酷で長期的な(国連)制裁のためにあらゆるものが不足した中で(コロナへの)非常防疫も行わなければならない上,厳しい自然被害(台風被害)も復旧しなければならないという大きな挑戦と難関に直面した」と述べるなど,制裁・コロナ禍・水害の「内外的要因」による経済的困窮に直接触れたほか,前掲の「決定書」で「厳しい内外情勢が続いて予想できなかった挑戦が重なったため経済事業を改善できず,計画された国家経済の目標が甚だしく未達成となり,人民生活が明らかに改善されない結果ももたらした」(2020年8月20日付け『労働新聞』)と指摘するなど,経済目標への影響を率直に吐露しており,2016年5月の第7回党大会で示された「国家経済発展5カ年戦略」(2016~2020年)が不調に終わったこともうかがわせている。こうしたことを受け,北朝鮮としては,党大会と長期経済計画を契機として,これら難局の打開に向けて経済分野での大々的な刷新を図る狙いがあるものと思われる。

 そして第二の理由は,制裁との長期戦・持久戦を想定していることである。金正恩党委員長は前述の閲兵式で「自衛的正当防衛手段としての戦争抑制力を引き続き強化していく」と指摘した上で,「更に大きな苦労を覚悟しなければならないとしても,私と我が党に対する人民の信頼は常に無条件的で確固不動なものとなっている」と主張した。これは制裁の解除・緩和に向けて従来の強硬姿勢を軟化させることなく,今後も核兵器を含む戦力増強を図る方針であることを内外にアピールするとともに,制裁の長期化を見据え,自国民への更なる経済的犠牲も厭わないとの立場を強調したものと言える。

 こうした中,来年1月に発表される新「5カ年計画」の内容は,経済制裁との持久戦に向けて,北朝鮮が経済発展の原動力と主張する「内的潜在力と発展動力の強化」(8月19日,党中央委員会第7期第6回全員会議における金委員長の発言)に基づく「自力更生」路線の強化策が柱になると考えられ,具体的には「(制裁下の)現状況は自らの力と技術,自らの原料,資材に依拠して我々の内部的力と発展動力を増大させる絶好の機会」(10月17日付け『労働新聞』)と指摘するように,従来主張してきた各経済分野での国産化振興策や科学技術重視などが再強調されることがうかがわれる。また,限られた資源を最大限国家経済に投入するため経済に対する国家統制が大幅に強まることが予期され,中央集権化にドライブがかかることで資源配分の手段においては,近年北朝鮮当局が暗黙的に許容していた「市場メカニズム」から「計画経済」への揺り戻しが起こるものとみられる。

 制裁により北朝鮮経済と世界経済とのディカップリング(分離・非連動)が深化する中,海外依存を避け,自立的な経済成長を目指す北朝鮮の「自力更生」路線の強調,すなわち新「5カ年計画」樹立を通じた「計画経済」への回帰は,来年執権10年目を迎える金正恩党委員長にとって体制を固める上で強く意図したプロセスであると受け止められるが,一方で資源への対外アクセスが完全に遮断された制裁下で,どのような具体的かつ実践的な経済発展戦略を打ち出していけるかが強く問われることになる。次期党大会での金正恩党委員長の言動が注目される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1928.html)

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