世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3918
世界経済評論IMPACT No.3918

攻めの企業統治:事業リスク管理における経営効率

鈴木弘隆

(フリーランスエコノミスト・元静岡県立大学 大学院)

2025.08.04

なぜ,顧客満足度と株主還元が大事なのか

 ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)は,公益社団法人・非上場株式会社であり,中小企業ではないが,なぜ,顧客満足度と株主還元が大事なのかが腑に落ちる例であるので,以下で概観する。

 スポンサーを意識したファンの消費行動がB.LEAGUE加盟のクラブ(本稿では企業)を救ったとされている。新型コロナウイルスが流行し,スポーツ・エンターテイメントも活動自粛を余儀なくされていた2020年代前半において,パンデミックにより,各企業においては,スポーツへのスポンサー協賛の優先順位が下がり,来シーズンは協賛を離れるといった憶測も飛び交う中,クラブのために何かしたいという想いに駆られたファンが試合以外でもできることを実践していた。それが,クラブを支えるために各種SNSなどを使って,スポンサー企業の商品購入を呼びかける消費行動を促し,実際に消費行動が実践されたケースも数多くあったことである。その様子は,スポンサーにも可視化され,スポンサードを続けるインセンティブにもつながり,クラブの後押しとなっていった。

 この事例は,地域密着型の企業経営において,スポンサー(=株主)とファン(=顧客)も含めたサプライチェーンを意識する必要があることを示している。以下では,こういった顧客満足度と株主還元を重視した地域密着型の攻めの企業統治としての収穫逓増の経営効率を概観する。

攻めの経営としての事業リスク管理

 地域密着型の経営において,有事の際に加え,どのように資金調達をするかは大事であり,危機対応や経済効果等の理由から,株主や債権者も含めたサプライチェーンにおける事業リスク管理が求められる。

 以下では,(国際)企業競争力の追求における攻めの企業統治として,企業の事業リスク管理における経営効率の向上を考察する。なぜなら,事業のリスク管理も会計不正や企業不祥事の撲滅とともに,企業統治の一分野であるからである。

 具体的には,投資活用による資金調達をROIC経営に組み込むことで持続可能性を担保し,中小企業の資金調達へのアクセスの一手段として3方良しを投融資を含む「株主と債権者を加えた4方良し」へと拡張した。

 リスク管理におけるROIC(投下資本利益率)とROE(自己資本利益率)の前提条件

 ROE=ROIC×財務レバレッジ=(1.企業収益)×(顧客満足度/顧客満足度)×(2.企業効率)×(株主還元/株主還元)×(3.負債活用度),ただし,(4)(投資効率)に従うとする。

 以下では,リスク管理におけるKPI(重要業績評価手法)として,顧客満足度と株主還元を扱うが,これは,地域密着型の経営における収穫逓増をモデル化(指数関数化)したものである。その理由は,地域密着型では,株主還元を意識した顧客満足度の上昇により,事業収益が収穫逓増で成長するからである。

 具体的には,攻めの企業統治におけるリスク管理としてROEを顧客満足度と株主還元で偏微分可能なように定式化するため,チェインルールを用いて以下のように要因分解する。ROEは,企業収益,企業効率,負債活用度に要因分解される。これら3つをさらに,企業収益と企業効率の間に顧客満足度を媒介させ,企業効率と負債活用度の間に株主還元を媒介させることで,企業文化としてのKPI(顧客満足度,株主還元)を%表示で組み込み,以下,要因分解した。その後,それぞれの要因における意味と結論,根拠を提示した。

 本稿では,チェインルールを用いて顧客満足度と株主還元をROICに組み込み,要因分解したのち,それぞれの要因の1.問題,2.意味,3.理由,4.教訓,を導出する。

(1)優良顧客一単位当たり当期純利益率(企業収益)

 ここでの問いは,優良顧客満足度から企業収益を高めるにはどうすべきかであり,これは,売上に対する利益率を高めることを意味する。

 ここでの教訓は,顧客満足度の上昇により,需要増のインセンティブによる高価格から企業収益を最大化することであり,言い換えると,優良顧客の単価を最大限高め,販管費を最大限削減して,企業収益を最大限高めることである。なぜなら,市場の需要増により企業収益の伸び率は顧客満足度の伸び率を上回るからである。

(2)株主一単位当たり優良顧客総資本回転率(企業効率)

 問いは,総資産回転率を増やすことで企業効率を最大化するにはどうすれば良いかであるが,これは,少ない総資産で大きな売上高を達成することを意味する。

 ここでの教訓は,優良顧客満足度の向上を介した企業収益最大化の総資産回転率の改善による企業効率最大化は,企業収益最大化から供給増のインセンティブによる総資産回転率の増加が見込まれるため達成されることである。これにより,企業は,企業収益の伸びによる供給増を効率よく捌くために,企業収益の伸び率以上に回転数を増加させる。

 言い換えると,顧客満足度で収益性を最大化した上で,事業を回す回数をできるだけ増やすことで,企業効率を最大限高めることである。なぜなら,株主還元を活用し,ビジネスの際に調達する総資産を出来るだけ少なくし,顧客満足度で収益性を最大化した上で,総資産回転率をできるだけ増やすことで,企業効率を最大限高めるからである。

(3)株主還元財務レバレッジ比率(負債活用度)

 問いは,株主還元から総資産割合の最小化をするにはどうすべきかである。これは,株主還元を活用して資本を呼び込み,ビジネスの際に調達する総資産を出来るだけ少なくすることを意味する。

 ここでの教訓とは,つまり,財務レバレッジを最大化するには,自己資本の範囲内で,純有利子負債額を最小化して「健全財務状況」を最大化し,,株主資本を最小化することで,その他包括的利益累計額を最大化し,「負債活用」を最大化することである。

 その理由は,株主還元による株主資本割合の増加のインセンティブによる総資産割合の減少が生じるからである。指数関数により,純資産額が変わらないか,以前より増えれば,配当政策の乗数効果は1以上となる。

 つまり,配当政策による他人資本の伸び率は,自己資本の増加率を上回ると言える。

(4)負債活用最大化(投資効率)

 ここでの問題は,(株主還元を介した総資本の最小化から),自己資本の範囲内での,その他包括的利益累計額を最大化することにより,「負債活用」を最大化するにはどうすべきかである。その意味は,株主・債権者版のROI(投資利益率)であり,財務健全化による,その他包括的利益累計額の最大化のインセンティブにより負債活用の最大化ができることである。

 その他包括的利益累計額は,お金であることから指数関数に従う。したがって,その他包括的利益累計額の増え方は収穫逓増であり,その他包括的利益累計額は指数関数的に増大すると,バブルとなる(しかしながら,過去の教訓が示すとおり,実務的には,バブルはいつか弾ける)。

 しかしながら,その他包括的利益累計額は,株価で考察する場合は,ランダムウォークと推定されており,法則性は今の所発見されていない。

 お金は,指数関数に従うので,収穫逓増の仮定では,1%増加すると増分は1%増以上となる。

 つまり,配当政策による他人資本の伸び率は,自己資本の増加率を上回る。この自己資本比率の変動により,バブルが発生し,含み益を増大させる。

 この教訓は,財務レバレッジにより,健全財務状況を最大化することで,含み益を最大化することが可能であるということである。

 その理由は,配当政策による株主資本の増加率が,自己資本の増加率を上回ることで,その他包括的利益累計額に上昇圧力がかかるからである。

 ただし,実務上,バブルはいつか弾ける。

事業リスク管理における顧客満足度と株主還元の役割

 本稿における要因分解の考察から言えることは,事業リスク管理における顧客満足度(例えば,顧客満足度50%の場合)と株主還元(例えば,DOE(株主資本配当率)10%の場合)の役割は,当期純利益を重視するか,財務レバレッジを重視するかの判断指標となることであった(係数が高い方(低い方)を重視すると経営効率が良い(悪い))。補足として,当期純利益も財務レバレッジのどちらも重視すべきではない場合は,総資産回転率を重視することで経営効率を高めることができる。ただし,経営効率一辺倒の経営戦略だと,中長期的な持続可能性の問題があり,(国際)企業競争力としての収穫逓増(指数関数)を維持するには,顧客満足度を含めた地域密着型等の「株主と債権者を加えた4方良し」が必須となる。

結語

 上記のように,地域密着型の経営では,新型コロナウイルスによる活動自粛等の有事の際や,収獲逓増の経済効果をもたらす等の理由から,サプライチェーンにおいて顧客満足度と株主還元を考慮することが求められる。これを受け,攻めの企業統治において投資活用により資本市場から資金調達をして(企業)収益性を追求することで,企業業績の指数関数的な成長を享受し,結果として複利効果により収穫逓増となるため,(国際)企業競争力につながる経営効率の向上が見込まれる。ただし,赤字の時の損失も収穫逓増となるため,中小企業の命運を左右する事業計画書の内容とその運用が重要となる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3918.html)

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